Kayatsuri Blog

09/10/2007

シリーズ・日本の創薬ベンチャーを考える(その3)

Filed under: がん・創薬 — 蚊帳吊りウサギ @ 07:46 pm

ファイザー中央研究所の閉鎖は、実は世界中の事業拠点を巻き込んだ1万人規模にのぼる人員削減プランの一環です。ファイザーがこんな大胆なリストラ策を打ち出した背景には、主に二つの要因があります。ひとつは、2010年に迫った主力商品の高脂血症薬リピトールの特許切れです。ご存知の方も多いと思いますが、欧米では特許切れと同時にほとんどの新薬が安価な後発ジェネリックに置きかえられてしまいします。リピトールはファイザーの売り上げの20%近くを稼ぎ出していると言われていますので、その損失を補完するのは容易ではありません。しかし、世界最大の製薬企業がこのような状態にただ手をこまねいているはずもなく、リピトールを超える超大型新薬との期待のかかるコレステロール降下薬トルセトラピブの臨床試験は、最終段階の第三相を迎えて、当局による承認も目前。経営は安泰・・・・のはずだったのです。昨年の12月までは。

ところが、まさに晴天の霹靂。12月2日、ファイザーはこの8億ドルもの研究開発費をつぎ込んだトルセトラピブの開発中止を発表しました。15000人規模の臨床試験の結果、脳卒中や心臓発作などを防止するはずのトルセトラピブが、あろうことか、その服用によって逆に死亡や心血管障害のリスクが増大させることがわかったためです。トルセトラピブは、CETPというたんぱく質の働きを阻害して、いわゆる善玉コレステロールを増やし、悪玉コレステロールを減少させます。実際に、臨床試験でも善玉コレステロールの増加は、はっきりと確認されていますので、トルセトラピブによる死亡率の上昇はまったく予期せぬ結果であり、現在でもその原因ははっきりしません。このあたりに、ほとんど無数とも思えるコントロール機構が複雑に作用しあって維持されている生き物の体の働きに、人間が浅薄な理解でデザインした薬物をもって干渉することの、本質的な危うさがあるといえます。だからと言って、薬を飲むな、薬を開発するな、と言う立場を、私はとりませんが、人間の体には、風が吹けば桶屋が儲かる式の不可思議があることを、よく肝に銘じておくべきだとは思います。

さて、話がやや横道にそれてしまいましたが、リピトールの特許切れ、トルセトラピブの開発失敗を踏まえて、ファイザーは大型リストラに踏み切ったわけです。

続く

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