最近読んだ本
酒井直隆著、「ピアニストの手-障害とピアノ奏法」、ムジカノーヴァ叢書22、音楽の友社。先日、帰国した時に心斎橋のヤマハで見つけて買ってきた本です。100ページほどのペーパーバックですから、本というよりは小冊子という趣です。目次を眺めてみると、第三章-指の独立性を高めるための手術、第四章-手の構造とピアノ奏法、などという興味深い項目が目に止まります。この手術というのが特に面白いですねえ。どういうことをするのかというと、薬指と中指を伸展する二つの腱をつないでいる腱間結合を手の甲のところで切断するのです。こうすることによって、二本の指の伸展筋腱は独立して動けるようになり、薬指の独立性が高まるというわけです。この腱間結合の存在は実際に触って確認することが出来ますし、また、手を広げての中指だけを折り曲げる動作をしながら手の甲の腱の動きを観察すると、中指の腱の動きにつられて薬指の腱が、腱間結合を介して中指側に引っ張られる様子がはっきり観察できます。この手術は、19世紀中ごろ以後アメリカを中心に行われたようですが、その後廃れたところを見ると、たいした効果はなかったか、あるいは弊害も多かったのでしょう。著者は、特別なケースには一定の効果はあるかもしれないと言っています。
その他、ピアニストが手に障害をきたした時に練習していた曲・テクニックの統計というのも面白いです。手に悪い曲のナンバーワンはショパンのバラード、ト短調でした。技術的には、オクターブの練習が圧倒的にハイリスクです。手を大きく拡張したままの打鍵が大きな負担になるのですね。ギターでも同じようなことを調べたら、何か有益な情報が得られるかもしれません。
全体として良く書かれた本だと思いますが、冒頭の解剖学的記述が面白いのに反して、後半の脳内プロセスや技術論の記述に深みがなく、やや尻すぼみの感があるのがすこし残念です。